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京都地方裁判所 昭和43年(わ)256号 判決 1977年12月16日

裁判所書記官

木ノ下正一

本籍

京都市下京区猪能通り四条下る松本町二七八番地

住所

同市山科区音羽中芝町一〇番地

金融業

正木英吉

大正一三年四月一五日生

右の者に対する所得税法違反、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察音岡戸久次出席のうえ審理して次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金二、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事項)

被告人は、昭和三〇年ころから京都市中京区醒ケ井通西条上る藤西町五九七番地において金融業を営み、顧客(主として中小企業者)などの依頼により割引いた手形等を銀行、金融業者、金主のもとで再割引を受け、その受取割引料(収入割引料)と支払割引料との差益を取得するなどしていたものであるが、

第一  所得税をほ脱しようと企て、収入割引料を除外し架空経費を計上する等不正の方法により所得を秘匿したうえ、

(一)  被告人の昭和三九年分の真実(実際)の総所得金額は二一、四〇五、二九八円でこれに対する所得税額は一〇、二九五、四〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四〇年三月一五日同市同区柳馬場通り二条下る中京税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一、〇一九、五六六円でこれに対する所得税額は一〇三、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当税額と右申告税額との差額である所得税一〇、一九二、四〇〇円をほ脱し、(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙二、三のとおり)

(二)  被告人の昭和四〇年分の真実(実際)の総所得金額は三五、一七三、五二八円でこれに対する所得税額は一八、七五二、四〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四一年三月一五日前記中京税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一、五四八、八一二円でこれに対する所得税額は二〇八、二五〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当税額と右申告税額との差額である所得税一八、五四四、一五〇円をほ脱し、(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙二、三のとおり)

(三)  被告人の昭和四一年分の真実(実際)の総所得金額は二六、〇六五、四九〇円でこれに対する所得税額は一二、九四三、三〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四二年三月一四日前記中京税務署において、両税務署長に対し、所得金額は六八四、六七二円でこれに対する所得税額は二〇、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当税額と右申告税額との差額である所得税一二、九二三、一〇〇円をほ脱し、(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙二、五のとおり)

第二  昭和四四年三月二〇日ころ、前記京都市中京区醒ケ井通四条上る藤西町五九七番地において、岡村実に対し、貸付期間を同月三〇日までとして三、五〇〇万円の金銭を貸付けるにあたり、二一〇万円を天引利息として受領したほか、別紙一の番号1ないし5記載のとおり右債権を更新するに際し、いずれも二一〇万円の利息を先取りし、もつて百円につき一日三〇銭をこえる四二銭五厘五毛(元本三、二九〇万円、期間一五日として利息計算)の割合による利息を受領し、さらに別紙1の番号6及び7記載のとおり右債権を更新するに際し、いずれも二一〇万円の利息の支払いを受ける旨約し、もつて百円につき一日三〇銭をこえる四二銭五厘五毛の割合による利息の契約をし、

第三  所得税をほ脱しようと企て、顧客の依頼により割引いた手形の再割引にあたり支払割引料を過大に計上し、小切手の割引による収入割引料を除外するなどの不正の方法により所得を秘匿したうえ、

(一)  被告人の昭和四三年分の真実(実際)の総所得金額は一二二、〇五六、一一八円でこれに対する所得税額は八一、八九一、〇〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四四年三月一三日前記中京税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は六、六三五、二一一円でこれに対する所得税額は二、〇七三、三〇〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当税額と右申告税額との差額七九、八一七、七〇〇円をほ脱し、(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙六、七のとおり)

(二)  被告人の昭和四四年分の真実(実際)の総所得金額は八八、七四五、七六二円でこれに対する所得税額は五六、五二九、七〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四五年三月一五日前記中京税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一九、二八四、七五四円でこれに対する所得税額は八、八〇七、八〇〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当税額と右申告税額との差額四七、七二一、九〇〇円をほ脱し(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙六、八のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

(かつこ内の検申番号は、判示第一の事実については昭和四三年三月一二日付起訴分のものを、判示第二の事実については昭和四四年九月一二日付起訴分のものを、判示第三の事実については昭和四七年三月四日付起訴分のものをそれぞれ示す。)

判示冒頭の事実につき

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(昭和四三年三月一二日付起訴分の検甲第三三号、昭和四七年三月四日付起訴分の検甲第八一号)

一  被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和四四年九月一二日付起訴分の検甲第七号)

判示第一の事実につき

一  昭和四三年(わ)第二五六号所得税法違反被告事件の第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書五通(検甲第三三ないし第三七号)

一  被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書一二通(検甲第二一ないし第三二号)

一  正木喜久子(検甲第一二号の二)、林満則(検申第一五号の二)、大友敏明(検甲第一六号の二)、松原典男(検甲第一七号の二)、井上与宗夫(検甲第一八号の三)、菅原政三(検甲第一九号の二)の検察官に対する各供述調書

一  福井俊夫(二通、検甲第一〇、第一一号)、依田時之(検甲第一三号)、伴一男(検甲第一四号)、辻政春(検甲第二〇号)に対する大蔵事務官の各質問てん末書

一  告発書類(検甲第八号の一)中の植村登志郎作成の確認書

一  告発書類(検甲第八号の二)中の山村光夫作成の確認書

一  告発書類(検甲第八号の四)中の被告人作成の確認書三通(昭和四二年一二月八日付(二通)、同月一一日付)

一  告発書類(検甲第八号の五)中の次の作成にかかる各確認書谷奥光弘(昭和四二年一〇月五日付)、植村登志郎(同年一一月三〇日付、但し記録第一九-六号)、名田直義(同年七月二四日付)、森三次良(同年九月八日付)

一  告発書類(検甲第八号の八)中の大蔵事務官内藤修治作成の調査てん末書二通(昭和四二年一二月一一日付、同年一一月八日付)

一  告発書類(検甲第八号の九)中の次の大蔵事務官の作成にかかる各調査てん末書

田村辰雄(昭和四二年一一月一〇日付)、水野良博(同日付、但し記録第二四-三号)、広原芳弘(同日付)、内藤修治(同年一二月一日付)

一  告発書類(検甲第八号の一〇)中の次の大蔵事務官の作成にかかる各調査てん末書

内藤修治ほか二名(昭和同二年九月二九日付)、田村辰雄ほか一名(同月二七日付)

一  告発書類(検甲第八号の一一)中の大蔵事務官内藤修治ほか三名作成の調査てん末書(昭和四二年九月八日付)

一  告発書類(検甲第八号の一二)中の大蔵事務官内藤修治ほか三名作成の調査てん末書(昭和四二年一〇年一三日付)

一  大蔵事務官内謀修治作成の調査てん末書(検甲第九号の一)

一  大蔵事務官内藤修治作成の「再割引料の説明書」と題する書面(検甲第九号の二)

一  押収してある割引手形明細簿三冊(昭和四三年押第一九一号の1、2、4)及び貸付元帳一冊(同押号の3)

判示第二の事実につき

一  昭和四四年(わ)第七四一号出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反被告事件の第二回及び第一四回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官(検甲第一〇号)及び司法警察員(三通、検甲第七ないし第九号)に対する各供述調書

一  右被告事件の第九回及び第一〇回公判調書中の証人岡村実の供述部分

判示第三の事実につき

一  被告人の検察官に対する供述調書(検甲第八一号)

一  被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書二九通(検甲第五二ないし第八〇番)

一  昭和四七年(わ)第一五七号所得税法違反被告事件の第一九回公判調書中の証人岡村実の供述部分

一  正木喜久子(検甲第一号)、阪口幸子(検甲第二号)、大瀬和子(検甲第三号)、福井俊夫(検甲第九号)、中嶋美代子(検甲第一〇号)、林憲二(検甲第一九号)、西村保(検甲第三〇号)、河野りき(検甲第四〇号)、磯部みつ(検甲第四一号)に対する大蔵事務官の各質問てん末書

一  大蔵事務官藤原多八作成の所得税確定申告書謄本二通(検甲第七、第八号)

一  次の大蔵事務官の作成にかかる各調査報告書

藤本忠士(六通、検甲第一四、第三六、第四三、第四九、第五〇、第五一号)、吉田光宏(四通、検甲第一六、第四二、第四四、第四八号)、坂本義孝(三通、検甲第二六、第三五、第三七号)

一  正木英吉作成の上申書(四通、検甲第一五、第二〇、第二一、第四五号)及び確認書(二通、検甲第二五、第四七号)

一  次の者の作成にかかる各確認書

石取義雄(二通、検甲第一三、第三八号)、佐藤安弘(検甲第一七号)、川瀬敏之(検甲第一八号)、桜井二三(検甲第三四号)

一  磯田真治作成の供述書(検甲第二七号)

一  森きぬ作成の回答書(検甲第四六号)

(事実認定についての補足説明)

(一)  昭和四三年三月一二日付起訴状関係

(1)  大蔵事務官内藤修治作成の昭和四二年一二月一一日付調査てん末書(検甲第八号の八の調査書類中のもの)によれば昭和三九年分の年末前受割引料は総額で二、四三九、四八一円となつているが(一六〇六丁参照)、右調査てん末書の前受(利息)割引料についての記載には、額面全額一九八、七〇〇円の手形(振出人三葉(株)、支払期日四月一三日、なお一〇五七丁及び一六八一丁参照)の前受利息三一、五九三円(<省略>)が脱漏しているから、同年分の年末前受割引料は正しくは前記二、四三九、四八一円に右三一、五九三円を加算した二、四七一、〇七四円であるところ、各年分の収入割引料(修正損益計算書差引修正金額欄記載のもの)は、押収してある割引手形明細簿に基づいて集計した収入割引料に年初前受割引料(前年分の年末前受割引料)を加算し、年末前受割引料(翌年分の年初前受割引料)を減算することによつて算出されるから〔第五回公判における内藤証書(三二五七丁)、検甲第三六号証添付の収入割引料明細書各参照〕、昭和三九年分の収入割引料の実際額は右の収入割引料明細書記載の合計額八〇、五八二、一八六円に年初前受割引料七三五、〇三七円を加え年末前受割引料二、四七一、〇七四円を減じた七八、八四六、一四九円である。したがつて昭和三九年分の修正損益計算書(検甲第三八号、三二七一丁)の収入割引料(差引修正金額)欄記載の七八、八七七、七四二円は右の七八、八四六、一四九円に訂正されなければならない。(なお同年分の総所得金額、正当税額の計算については別紙二、三参照)

(2)  右にみたように昭和三九年分の年末前受割引料は二、四七一、〇七四円であるからこれに対応する昭和四〇年分の年初前受割引料も当然右金額であつて、同年分の収入割引料の総額〔昭和四〇年分の修正損益計算書(検甲第三八号、三二八五丁)差引修正金額欄記載〕一六〇、八二七、〇八四円は一六〇、八五八、六七七円に訂正されなければならない。また同年分の支払割引料のうち三菱銀行河原町支店関係の六月分は九〇、六八二円(一六八七丁参照)でなく九〇、九五二円であるので(二八一丁参照)、同年分の支払割引料の総額は二、六八八、四二五円(三二八五丁)ではなく二、六八八、六九五円である。(なお同年分の総所得金額、正当税額の計算については別紙二、四参照)

(3)  昭和四一年分の支払割引料のうち三菱銀行河原町支店関係の一月分は三一、四二六円(一六八八丁参照)でなく三一、五二六円であるので(二九〇丁参照)、同年分の支払割引料の総額は二、二二三、二七四円(一三三丁)ではなく二、二二三、三七四円である。(なお同年分の総所得金額、正当税額の計算については別紙二、五参照)

よつて変更後の訴因どおり認定した。

(二)  昭和四七年三月四日付起訴状関係(とくに桂製作所関係の未収利息不渡手形の金額について)

検察官の起訴は、昭和四三年末現在の桂製作所に対する貸付元本(不渡手形)残六、三〇七、〇〇〇円及び利息二、四五五、六一五円について同年中に被告人が差替手形八通(額面金額合計八、七六〇、〇〇〇円)を受け取り、右手形金額のうち八、五三〇、〇〇〇円が昭和四四年中に決済されているとの前提に立ち(検甲第二六、第二七号参照)、結局桂製作所関係については、右六、三〇七、〇〇〇円を昭和四三年末現在の貸付元本残高(検甲第二〇号証、冒頭陳述書六3参照)として、利息制限法による制限を超過する利息も含め二、二二三、〇〇〇円を昭和四三年末現在の未収利息残高(冒頭陳述書六-4)としてそれそれ計上するものである。しかし右差替手形のうち最後に支払期日の到来する四通についてはその振出人が桂製作所であるのかあるいはその他の第三者であるのか証拠上これを確定することができないのであつて、仮に右差替手形四通が桂製作所の振出であるとすれば、制限超過利息該当分について振出人から原因関係上の抗弁が主張され支払を拒絶されるときは振出人に対して法律上その履行を強制するすべはないのであり、利息制限法による制限超過の利息・損害金は約定の履行期が到来しても、なお未収であるかぎり課税の対象となるべき所得を構成しないこと最高裁判所昭和四六年一一月一六日判決(刑集二五巻八号九三八頁)の判示するとおりであるから、桂製作所関係の制限超過利息(昭和四三年分)についてはこれを被課税所得に含めることはできない。そしてそもそも元本先充当の指定があつたとは認められない本件貸付においては返済金は先ず利息に充当されたとみるべきであり、そうとすれば利息制限法の制限に従つて計算した発生利息(総計四一六、三五四円。別紙九参照)は昭和四三年中にすべて既収であつたことになり、昭和四三年末現在末現利息はないことになる。一方昭和四三年末現在の貸付元本残高については同年中の多数回にわたる返済金(検甲第二六号参照)がすべて元本に充当されたとみる場合(冒頭陳述書作成の基礎になつている考え方がそうである。)にこそ右残高は六、三〇七、〇〇〇円であるということができるが、既にみたように同年中の返済金のうち前記四一六、三五四円が利息に充当されたとみなすときは、同年中の元本返済(充当)額が右金額だけ少なくなる結果、同年末現在の貸付元本残高は返済金がすべて元本に充当された場合よりも右金額だけ多くなる。してみると同年末現在の桂製作所に対する貸付元本(不渡手形)残は六、三〇七、〇〇〇円に右四一六、三五四円を加算した六、七二三、三五四円であることになる。

したがつて昭和四三年末の不渡手形総額は冒頭陳述書六3の九七、四一二、四九九円に右四一六、三五四円を加算した九七、八二八、八五三円であり、同年末の未収入金総額は冒頭陳述書六-4の二、七七九、五八二円から桂製作所関係の二、二二三、〇〇〇円を除いた五五六、五八二円である。

以上によると昭和四三、四四年分の修正貸借対照表(冒頭陳述書添付のもの、各勘定科目の増減で表現されている)は不渡手形と未収入金の科目について訂正されなければならず、その結果を示すと別紙七、八のとおりである。正当税額の計算については別紙六参照。

(法令の適用)

被告人の判示第一の(一)の所為は昭和四〇年法律三三号(所得税法)附則三五条により同法による改正前の所得税法六九条一項に、判示第一の(二)、(三)及び判示第三の(一)、(二)の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に、判示第二の各所為は出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律五条一項(昭和四五年法律一三号「利率等の表示の年利建て移行に関する法律」による改正前のもの)にそれぞれ該当するところ、判示第一及び第三の各罪については、いずれも所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科することにし(但し、判示第三の各罪につき、いずれもその免れた所得税の額が五〇〇万円を超えるので、情状により、所得税法二三八条二項を各適用)、判示第二の各罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の(一)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一及び第三の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金二、五〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の事情)

本件脱税は、手形割引を主とする金融業を営む被告人が、手形割引という事業の性質上一時に多大の損失を被る場合も考えられるためそのような将来の事業不振に備えるとともに自己資金を拡大しようという動機から昭和三九年以降昭和四一年までの所得税四、〇〇〇万円余をほ脱し、さらに右脱税事件で公判中であるにもかかわらず、右年分の修正申告に伴う多額の所得税等の納付によつて手持資金が減少したのでその不足を補うとともに事業拡張資金の蓄積をはかろうという動機から昭和四三、四四年分の所得税一億二〇〇〇万余をほ脱したという事案である。ところで脱税は国民の納税倫理に背反し、国民全体の不利益において不当に利得するという意味において反社会的かつ反道徳的な犯罪というべきところ、本件ほ脱税額は総額で一億六九〇〇万円にものほり、ほ脱率(所得の秘匿割合)は昭和四四年の七八パーセントを除きいずれも九五パーセントに及んでいて、申告率がきわめて低く、脱税事件で公判中であるにもかかわらずさらに脱税行為に及んだことなど、犯情悪質であり、検察官の求刑(懲役一年六月、罰金三〇〇〇万円)も首肯しえないではないが、他方被告人は本件脱税にかかる所得税、重加算税、延滞税等をすべて納付し、最近は、帳簿を正確に記載して忠実に納税義務を履行するなど反省の態度もみられるので主文のとおり量刑した。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田治正 裁判官 河上元康 裁判官 松本芳希)

別紙一

<省略>

別紙二

脱税額計算書

正木英治

<省略>

別紙三

修正損益計算書

自昭和39年1月1日

至昭和39年12月31日

事業所得分

<省略>

別紙四

修正損益計算書

自昭和40年1月1日

至昭和40年12月31日

事業所得分

<省略>

別紙五

修正損益計算書

自昭和41年1月1日

至昭和41年12月31日

事業所得分

<省略>

別紙六

脱税額計算書

正木英治

<省略>

別紙七

修正貸借対照表

昭和43年12月31日

<省略>

別紙八

正貸借対照表

昭和44年12月31日

<省略>

別紙九

不渡手形、未収利息の計算

(桂製作所)

<省略>

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